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当院では肝斑治療で服用するトラネキサム酸の長期連続服用はせず、休薬期間を設けております
「肝斑」は頬や額等に左右対称にもやっと広がるくすみで、
更年期、妊娠、ピルの内服でできることがあり
女性ホルモンとの関係や、紫外線、肌の摩擦等で悪化することもあります。
外用療法、ピーリング、レーザーなどさまざまな治療がありますが、
トラネキサム酸の服用は抗炎症作用とメラニン生成抑制により効果が期待できます。
ですが、
肝斑に限らず、美白効果があるために、
長期的に連続して服用していたり、
投与前のリスク評価なしに処方されているケースもみかけます。
トラネキサム酸は止血作用を利用してさまざまな疾患治療に使用されることから、
「血液をどろどろにする」と思われていることもありますがそうではありません。
体内には「線溶」という働きがあり、できてしまった血栓を溶かしたり、
できかかってしまった血栓を完成させないような働きを持っていますが、
トラネキサム酸はこの「線溶」という働きを抑制しますので
血栓ができやすい状態の方には血栓症のリスクが高まります。
したがって、服用開始にあたっては下記のような血栓症の既往がある方ばかりではなく、リスク因子をお持ちでないかの確認が必要です。
血栓症には大きく分けて2種類があります。
動脈血栓症は血流が速い環境下における血栓症で、血小板が活性化した血小板血栓ができやすいです。
心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈血栓症等です。
また動脈瘤のなかでも、通常の動脈瘤とは成長の過程が異なり、動脈瘤の壁に血栓が形成され、そこにできた栄養血管から出血を繰り返し、動脈瘤が大きくなる動脈瘤(血栓化動脈瘤)があります。こういった動脈瘤では大型化・巨大化の危険が高いといわれており注意が必要です。
静脈血栓症は、血流が遅く滞りやすい場所で生じやすく、凝固活性化を主体とした凝固血栓です。
深部静脈血栓症、エコノミークラス症候群、肺梗塞、心原性脳梗塞(心房細動等による)などです。
*朝倉英策 :血液凝固異常.日本臨床 72:287-292,2014より引用
肝斑世代の女性においては、ピルやホルモン補充療法をされている方が多く
特に気を付ける必要があります。
ピルや更年期に補充するホルモンにはエストロゲンが含まれます。
エストロゲンを服用すると、肝臓に取りこまれ、凝固系を活性化します。
内服する量が多いほど血栓リスクは高くなるといわれています。
ただし、皮膚に貼るタイプの経皮剤の場合には、肝臓を通過せず肝刺激が少なく、血栓症のリスクは低くなるようです。
以上のような疾患がなくても、血栓症が増加する50歳以上の
高齢者では、血管内皮の抗血栓作用が弱まっており、血栓症を誘発しやすくなっていますのでトラネキサム酸の服用には十分な注意が必要です。
実際に国内においてトラネキサム酸を使用することにより心筋梗塞、脳梗塞などの
血栓症が誘発された症例が報告されています。(ただし海外においては血栓症を増加させるという報告と血栓を形成しないという報告とがあり不明な部分もまだ残ります)
*出血性疾患に対してトラネキサム酸を使用後に静脈血栓塞栓症をきたした例(心臓vol.45.no7.2013)
*上部消化管出血にトラネキサム酸の使用が誘因となり、膝窩動脈血栓症を発症したと推測された症例(JJAaM,14 no11,748-753 14,2003
気を付けなければならないのは血栓症だけではありません。
長期服用により生じた肝機能障害の報告も出ています。
*須藤 真則ら:美顔のために長期内服したトラネキサム酸による薬剤性肝機能障害.新潟医学会雑誌128(6),282,2014
これによりますと、この時点でトラネキサム酸による肝障害の報告は10数例とまれではあるが、重症型では肝臓移植後の死亡例っもあることから注意が必要とあります。
患者さまは美容クリニックでもらうトラネキサム酸は、ビタミン剤等のサプリメントくらいにしか認識しておらず、内服薬としての申告が洩れ、肝機能障害の原因薬として発見するのに難渋したとの報告もありました。
トラネキサム酸はサプリメントではなく、薬剤です。
肝臓や腎臓で解毒されるため、長期服用は臓器に負担がかかります。
肝機能障害が生じていても、これによるものと気が付いていない場合も考えられます。長期間の服用は控えていただく方がよろしいです。
長期間のトラネキサム酸の服用は血栓リスク、肝機能障害のリスクを高めます。
どのくらい継続するとどのくらいのリスクが高くなるのかというエビデンスはありませんが、「トランシーノ」という市販のトラネキサム酸750mg/day配合の臨床試験において2カ月間服用の有効性と安全性を確認していますので
それを目安に当院では2-3か月服用継続していただきましたら
数ヵ月休薬をしていただくようにしています。
トラネキサム酸を長期間服用されている方は、先生とあらためてその必要性についてご相談されることをお勧めいたします。
カテゴリー:★ 院長ブログ・医療情報 ★, 美容・アンチエイジング 更新日:2021年5月31日